ハイソンは、チラリと辺りを確認した。若き所長の周りには、散乱したファイルや綴られた印刷誌が積み上げられていた。元々書棚が押し込められただけの片付いていないような部屋ではあったが、引っ張り出された資料の量は多い。

「大変ですね……徹夜で調べ物ですか?」
「まぁ、そんなところだよ」

 彼は口をもごもごとさせながら答えた。「直接的には関係がないけれどね」そう含む言い方をし、空になった菓子袋を丸めてポケットにねじ込む。

 ハイソンは、積み上げられている資料の山に目を向けた。『神秘』『不思議』『非科学的』『夢の構造と心理』『妄想の原理』……と奇妙な単語の並びを見て、思わず所長を盗み見てしまった。

 物静かに資料を閲覧する彼の瞳は切れ長で、睫毛は長く、整った顔にどこか哀愁を覚えた。

「君は、不思議な事について信じる人間かい?」

 突然尋ねられ、ハイソンは飛び上がった。とりたて失礼な事を考えてしまったわけではないが、第一声がちょっとだけ裏返ってしまう。