エルがマルクとの戦いに挑み始めて、少し経った頃、無人のビルの中を歩き続けていたセイジは、ようやく外の景色が眺められる場所まで辿り着いたところだった。

 セイジは先程まで、暗闇の中を彷徨歩いていたのだ。実際、そこは電灯が消えてしまった非常階段だったのだが、彼は何度も足を滑らせながら下へと向かい、一筋の明かりがさす回廊へと抜け出し、ビルのフロアに進めたのだ。

 割れた硝子窓の下を見降ろしたセイジは、『仮想空間エリス』の様子を一望して驚いた。荒廃した街の所々には消炎が立ち上り、遥か向こうには、こちらに迫り来る黒い壁に世界が削られてゆく光景があった。

 セイジは、現状を把握出来ず、しばらく世界が闇に呑まれてゆく様を眺めていた。

 右手の方向に、巨大な塔がある事に気付いて目を向けた。首を伸ばして確認してみると、この街で唯一電気の通った荘厳な電波塔のようだと察した。塔の頂上は、暗雲立ち込める雲の向こうに隠れ、かなりの標高があるのだろうなぁ、と場違いな感想をぼんやり抱いた。

 どうやら、目的とする『エリス・プログラム』の心臓部は、あの塔の中にあるのだろう。

 ひとまずセイジは推測した。地上はどうなっているか分からないが、所々戦闘音が聞こえるので、もしかしたら、また出遅れてしまっているのかもしれない。そう考えて気落ちした。

 うん、これはまた、ログに怒られるパターンのような気がしてきた。

 スウェン達は、もうアリスを見付けただろうか。脱出の件に関しては、一体どうなっているのだろう? 

 とにかく階下に降りなければ、とセイジは考えた。確認したがエレベーターは止まっており、移動手段は非常階段しかなさそうだった。しかし、灯りのない非常階段は真っ暗で、足元が見えないのだ。降りるまでに余計に時間がかかってしまうだろう。