ハイソンはそう考えつつも、クロシマは策がない事を口にしない男であると知っていたので、ひとまず話を一通り聞こうと考えて「それで?」と促した。

「お前は、一体何をおっぱじめようというんだ?」
「あちらが常に変化を続けているとはいえ、複数の方向から同時に、片っぱしからデータコードを書き換え続けられたら、一時的であれ大部分の機能が正常値には戻るでしょ? つまり、皆にはプログラムがこちらに従うよう、出来るだけ中枢部をメインとしたデータコードを、修正する方向で書き変え続けてもらいたいんです。『エリス・プログラム』は、修正されないよう意識をそこに働きかけるはずだから、俺がその隙をついてハッキングを進める――全部とはいかなくとも、俺の計算だと『出口』の主導権に関しては一番に確保出来ます」

 大事なのは、アリスやスウェン達が戻る経路を確保する事だ。ハイソンは、しばし思案するように腕を組み、「ふむ」と黙りこんだ。

 その時、リジーが遠慮がちに手を上げた。

「あの、この人数で、そんな事が可能なのでしょうか……?」

 すると、ジョエルとトーマスも、同じように小さく挙手をして、こう続けた。

「そもそも、クロシマさん一人でハッキングなんて、大丈夫なんですか?」
「『エリス・プログラム』のセキュリティー、とんでもないぐらい堅いですよ?」
「イケると思いますけどね」

 まるで緊張感も見せず、クロシマは軽い調子で肩をすくめて見せた。

「眠れない時間をハッキングで潰した俺の技量、ナメないで頂きたいっすね。それに、ハイソンさんの腕前も、上層部の爺共のお墨付きですよ。ハッキング以外の作業なら、この中でピカ一だと思うんですけど、――どうすか?」

 クロシマは、ハイソンに話を振った。ハイソンは、胃痛から来る冷や汗や、悪寒の止まらない顔をモニターに向けると、人差し指で眼鏡を持ち上げた。