とはいえ、謎は深まるばかりだ。解明しようと思ったら時間がないのは確かであり、科学的に説明も付きそうにない現象の数々を思うと、人命が掛かっている今は、出来るだけやれる事を全力で行うしかない。

 この世には、五万と不思議な事が転がっているのだ。

 科学では説明が出来ない『力』を持った特殊部隊も存在していたし、合成生物も成功した実験データが残されている。人食の生物兵器だって造り上げられたが、結局のところ、それら全てが解明されていたかと言えば、そうではない。

 今回も同じ事だ。大事なのは、仮想空間内に入っている部隊員の任務遂行を手助けし、無事に全員を生還させる。それが、ハイソン達の使命である。

「多分、俺達が考え過ぎているんですよ。正体不明の助っ人もいるようだし、時間も限られているでしょ? だからまずは、余計な事を考えるのは止めて取りかかるべきじゃねぇかと思うんですよ」

 クロシマは、「いいですか」と全員の前で人差し指を上げた。

「俺が『エリス・プログラム』にハッキングをかけます。中枢はバグが多すぎるとはいえ、こちらの指示に関して明確な拒否反応を起こせるんだから、基盤となっているプログラムは生きているはずなんです」

 人工知能が、拒絶という意思を示せるのは、心臓部分が正確に生きている証だ。そこに問題がないとすると、上手くいけば確かにハッキングも可能となる。そうすれば、主導権はひっくり返るだろう。

 しかし、そこには大きな問題がある。こちらの反応を見越したように、人工知能が常に変動を続けて、手出しされない状況を作り上げている事だ。