「ぐうぅ……原因は不明だが、『仮想空間エリス』が早急に崩れ始めているんだ。なんとか出口を作ってやらないと、中に入った人間は、一人も戻って来られなくなるぞ。セキュリティーの手前に絡みついているバグは一体何だ？　もそもそ、エラーの根源にすら辿り着けない有様だッ」
「その事なんですが、エラーの原因究明は一旦捨てて、とりあえずプログラムの主導権を出来るだけ奪還し、出口に繋がるシステムを完全に確保しちまいませんか」

　そう告げると、ハイソンが「何？」と訝しげな目を向けたので、クロシマは彼の聞く姿勢を見て「はい」と一つ肯いて続けた。

「さっき寝ちまった時に、仮想空間でそう指示を受けましてね。俺がセキュリティーにハッキングをかけるんで、ハイソンさん達には、バグの修正とシステムの奪還をメインで、ちょっとやって欲しい事があるんですよ。――まぁ、ひとまず俺が『仮想空間エリス』で見聞きした話を聞いて下さい」

　クロシマは一同を集めると、仮想空間内で指示を受けた事を手短に話した。『半透明の化け物』のせいで眠りに落ちている同僚達の意識が、どうやら仮想空間の表面に取り込まれているらしい事については、恐らく、原因不明のバグとの関係も考えられた。