「ッたく、この状況でみすみす寝る奴があるか!」

 ようやくクロシマが頭を起こしたところで、再度、ハイソンの拳が頭に振り降ろされた。構えていた訳ではないので、無防備な頭部に直撃した拳骨は、意外と痛かった。

「……ひどいっすよ、ハイソンさん。俺の頭が凹んで女の子にモテなくなったら、どうしてくれるんですか。可愛い小さな女の子の膝枕で寝るのが、俺の理想なのに」
「そんなの知るかぁ!」

 暴れ出すハイソンを、ラボに残っていた男性所員、ジョエルとトーマスが羽交い締めで「落ち着いて下さいッ」「いつものクロシマさんの悪い冗談ですからッ」と押さえた。

 クロシマとしては、ハイソンがここまで自分の感情を主張するのは珍しいので、茶化してやりたい気もするが、今は構っている余裕はなさそうだとも分かっていた。クロシマは、紙袋を渡してくれた女性所員リジーに短く礼を述べ、体勢を整えた。

 ハイソンが説教をしている間に、クロシマは、温くなった珈琲を喉に流し込んだ。