妹の死から一年も経つと、家族はようやく落ち着いた。クロシマの中では、既に風化さえしていた事の筈だった。彼は自分で薄情者だと自負していたし、あまり心動かされる事がない人間で、打算的で合理的な自分を、よく分かっていたつもりだった。

 けれど、どうしても駄目なのだ。

 紙袋に咳込み続けながら、クロシマは、不意に死んだ妹の事を思い出してしまった。誰もいない静まり返った部屋で、あの頃感じた濃厚な闇が、彼の上に圧し掛かり息さえままならない。

 不安が込み上げる。もしかしたら誰かがそこで死んでいて、誰も気付いてやれていないのかもしれない……そんな不安が、我知らず彼の脳裏を掠めていく。

 クロシマは、人の集まりる賑やかな場所が好きだった。人がいる場所は落ち着く。助けられなかった妹の泣き声ではなく、生きている人間の気配と声に囲まれて初めて、クロシマはようやく、少しだけ眠りに落ちる事が出来るのだ。

 とはいえ、今の状況は最悪だった。ちょっと仮眠を取っただけなのに、最低な気分である。

 クロシマは、自分の安眠の為にも、とっとと事を終わらせなければならないだろうと思った。なにせ彼は数日間の有給を取らされたものの、結局、その間は一睡も出来なかったのだ。