エルは、顔面に飛んできたコンクリートの欠片を避け、素早く体勢を整えた。

 ふと、腕の動きを止めた戦闘兵器が、マルクの呻きに合わせて、獣のように身体を軋ませ始めた。巻き付いた電気ケーブル一気に膨れ上がり、巨大な肩にミサイル弾が形成された。オイルのような液体をまとって盛り上がったその武器は、まるで生命が兵器を産み出して進化するさまを思わせた。

 数秒も待たずに、戦闘兵器の巨大な腕が、予想以上のスピードで振るわれた。
百五十キロは軽く超える驚異的なスイングは、目にも止まらぬ速さでエルの眼前に迫った。エルは、己の反射神経で、間一髪のところで押し潰される事は回避出来たが、僅かに掠った頬に、焼けるような痛みが走りゾッとした。

 それでも、時間稼ぎにはなれるだろう。

 きっと、何も行動しないよりは断然いい。

 エルは震えそうになった指先を握り込むと、手の甲で頬の擦り傷を拭い、変わり果てた戦闘兵器――対地上用戦闘機MR6に向きあった。

            ※※※
 
 三半規管が激しく回転するような眩暈、胸に込み上げる嫌悪感――

 嘔吐とまではいかないが、まるで深海から一気に水上へ引き上げられるような圧迫感に、クロシマは目覚めと同時に激しく咽んだ。

 ようやく五感が身体に戻って来ると、頭への強い衝撃と共に、まだぼんやりとしか覚醒していない聴覚に、聞き慣れた怒鳴り声が聞こえて来た。