「……エリスを止めなきゃ、貴方の中からも彼女はすっかり消えてなくなってしまうんだ。そんな事、俺が絶対にさせない」

 己の使命を思い起こして、勇気を奮い立たせた。そのために、エルは第二の人生を選び取ったのだ。

 エルは、両足で大地を踏みしめると、自分の拳を掌に打ち当てた。体格差は数倍以上だという恐怖はあったが、諦めるわけにはいかない。全力で戦って、勝つ。

「『彼ら』は、俺の意思を尊重してくれるといった。そのおかげで俺は、オジサンとも出会えた。だから今度は、俺が恩を返す。優しくしてくれた『あの人』を、約束通り助け出すんだ」

 もう何も出来なかった小さな手ではない。必死に足掻いて伸ばせば、きっと、彼女に届くだろうと信じていた。

 マルクの目尻に青筋が立ったのを見たエルは、彼の顔色が悪いのは、精神的な疲労や焦燥ばかりではないと気付いた。戦闘兵器を飲み込む電気ケーブルが、彼の首から下の皮膚に入り込み、所々の皮膚を裂きながら脈打っていたのだ。

 うわぁ、これ、ちょっとホラーじゃない……?

 彼は肉体のまま仮想空間に入ったらしいが、痛くはないのだろうか。そう、エルが場違いな疑問を覚えた時、こちらを見つめるマルクの明るいサファイヤの瞳が、不意に痙攣を起こして焦点を失った。

 マルクの眼球が震えて、血走った白眼が頭上を仰ぎ、乾燥し切った唇が歪んだ。

「――お前ガ、何を言っテイルのかワカ、らない。エリスは、……エリスは生きナクテハならないのだ。エリスは、エリスはエリスはエリスの邪魔はサセナイ」

 戦闘兵器の大きな腕が、コントロールを失ったように辺りを激しく打ち壊し始めた。強打された地面は割れ、コンクリートは押し潰され、ビルの分厚い壁が簡単に砕かれて、その残骸が弾け飛ぶ。