巨大な何者かの足音が、大地を揺らす音を聞いてエルは身構えた。

 建物に残されていた硝子が揺さぶり落とされ、地面に落下して砕け散る。次第にその足音は大きくなり、不意に、建物の壁を巨大な鉄の腕が掴んでいた。

 先程の戦闘兵器の倍はある装甲の腕が、鋭い三本の指を器用に使い、コンクリートの壁にめり込んだ。建物の影から現れたのは、丸みを帯びたボディを持った三メートル以上はある大型の地上型戦闘兵器だった。全身に生き物のように絡みついた電気ケーブルが、ボディの装甲を更に増幅させ膨らんでいた。

 しっかりと大地を掴んで踏み歩く二本の脚、二本の腕の先には指のような三本の鋭い凶器が付いており、頭頂部には、防弾ガラスに守られた見通しの良い運転席があって半分以上が電気ケーブルに覆われていた。

 その戦闘兵器に乗車していたのは、やけに血色の悪い、細長い顔をした色白のアメリカ人だった。薄い金髪には、白髪が混じっている。

 戦闘兵器がこちらを向いた。エルは、操縦者を注視しつつ身構えた。

 恐らくは、彼がマルクという科学者なのだろう。操縦席から覗く首元からは、白いシャツと白衣の襟が確認出来た。神経質そうな目は、ひどく憔悴しきっているようにも見える。

 操縦席からエルの姿を認めた途端、マルクの眼から平常心が薄れた。目尻と鼻頭に皺が寄り、目尻の皺が引き攣る。

「……なんだ、お前は。私の資料にはない顔だ」
「俺の名前はエル。エリスに会いに来た」

 すると、マルクの眉間に、更に神経質そうな筋が浮かんだ。彼はしばらく間を置くと、乾燥した薄い唇を開いた。

「エリスだと? アリスではなく……? ――嘆かわしい事だ。軍は、お前のような子供まで出向かせるほどなのか。どこの部隊の人間だ。今度は暗殺用の兵士でも寄越したか?」