すると、煙男が腕を組んだまま首を傾げた。
(物覚えが悪いって話っすか? それなら問題ねぇでしょ。自分の大事な名前があるんなら、それだけで上出来っすよ。やらなきゃいけない事が大き過ぎるってんなら、誰かと分け合えばいいだけでしょう。俺達は戦場に置いては非力ですが、機械の中じゃあ水を得た魚って奴もいますし、頼まれた事はきっちりやっておきますんで、任せて下さいよ)
男の言葉が、エルの胸に突き刺さった。少しでも希望を見せられる事が、エルには痛かった。
姿はハッキリと確認出来ないが、恐らく彼は、良い奴なのだろう。言葉の端々に性格の軽さが滲み出ているような気もするが、実のところ、しっかりしている風でもある。
エルは、男がどんな顔をしているのか気になった。見られない事を、そして今後も確認する機会がない事を、寂しく思った。
(だから他人ばかりじゃなくて、あんたも自分の事、しっかり考えて下さいよ。俺、結構あんたの事気に入ったし、終わったらジュースでも奢ってやりますんで、そんな時は話ぐらい聞かせて下さい)
「……俺、いちようお酒も飲める年齢なんだけど」
(マジっすか。日本人にしても小さ――いや、幼過ぎません? いくつっすか?)
「…………二十歳」
(うーわ、そりゃあすげぇ詐欺っぽいわぁ。あ、なんかそろそろ起きる気配――……おっと、俺『クロシマ』って言いますんでッ、よろしく!)
失礼な物言いをした男の姿が揺らぎ、煙だけで構成されたような身体が、途端に風に舞って消えていった。
もう少し長引けば危なかったかもしれないと安堵しつつ、エルは首の後ろに覚える殺気に身構えた。先程の地上型戦闘機の比にならない、大きな二足歩行の地響きが地面を伝わり始めた。
(物覚えが悪いって話っすか? それなら問題ねぇでしょ。自分の大事な名前があるんなら、それだけで上出来っすよ。やらなきゃいけない事が大き過ぎるってんなら、誰かと分け合えばいいだけでしょう。俺達は戦場に置いては非力ですが、機械の中じゃあ水を得た魚って奴もいますし、頼まれた事はきっちりやっておきますんで、任せて下さいよ)
男の言葉が、エルの胸に突き刺さった。少しでも希望を見せられる事が、エルには痛かった。
姿はハッキリと確認出来ないが、恐らく彼は、良い奴なのだろう。言葉の端々に性格の軽さが滲み出ているような気もするが、実のところ、しっかりしている風でもある。
エルは、男がどんな顔をしているのか気になった。見られない事を、そして今後も確認する機会がない事を、寂しく思った。
(だから他人ばかりじゃなくて、あんたも自分の事、しっかり考えて下さいよ。俺、結構あんたの事気に入ったし、終わったらジュースでも奢ってやりますんで、そんな時は話ぐらい聞かせて下さい)
「……俺、いちようお酒も飲める年齢なんだけど」
(マジっすか。日本人にしても小さ――いや、幼過ぎません? いくつっすか?)
「…………二十歳」
(うーわ、そりゃあすげぇ詐欺っぽいわぁ。あ、なんかそろそろ起きる気配――……おっと、俺『クロシマ』って言いますんでッ、よろしく!)
失礼な物言いをした男の姿が揺らぎ、煙だけで構成されたような身体が、途端に風に舞って消えていった。
もう少し長引けば危なかったかもしれないと安堵しつつ、エルは首の後ろに覚える殺気に身構えた。先程の地上型戦闘機の比にならない、大きな二足歩行の地響きが地面を伝わり始めた。