すると、煙男が、顔の眉辺りに影を作って腕を組んだ。

(大丈夫って、どういう事っすか? まるで死にに行くみたいな言い方だなぁ。くそっ、ハイソンさんの胃も限界だし、所長とっ捕まえて訊き出さなきゃならないっすね……)

 男は、エルがよく分からない事を口にした。ハイソンという名前に関しては、スウェン達から何度か聞いた覚えがあるので、恐らくは外の研究員とは推測出来るが。

 胃が限界って、すごく大変な状況って事だよな……?

 ログが時々、外の連中は気ままなもんだというような事を口にしていたが、そんな事はなかったじゃないかと思ってしまう。会った事もない『ハイソンさん』の苦労を想像して、エルは労いの言葉を思い浮かべてしまった。

(事情は分かりませんけど、それでも、あんたは今、生きているでしょうに。俺が見る限り、あんたは相当強いし、最後まで足掻けばいいじゃないっすか? 何に悩んでいるのかは予想もつかねぇっすけど、サポートならしますよ)
「でも俺は、自分の本当の名前も、下だけしか覚えてないし、その、やらなきゃいけない事があって――」

 初めて会った人間に、足掻け、なんて言われるとは思っていなかったから、エルは何となく慌ててしまった。