(でも、あんたの話を聞いていて思ったんですがね。あんたは、他人の事ばかりですね。無理して背伸びしなくてもいいっつうか、そもそも『エル』ってだけ情報を渡されても、困るんすよねぇ。うちとしては、あんたがどこの誰だか探したいところなんですよ。軍人は後処理を全部こっちに押し付ける癖に、協力的じゃねぇし、困ったもんです)

 エルは「そうなのか、ごめん」と思わず苦笑した。

 けれど、やらなければならない事があるのだ。今は誰にも明かせない、エルとホテルマンだけの秘密だが、必ず最後の犠牲が必要になる事を思いつつ、エルは、どうにか微笑んで見せた。

「俺を探す必要はないよ。俺は所長さんって人に助けられたけど、結局は、事故で死んだ事になっていて、『エル』は育ててくれた人が付けてくれた名前たし……だから、大丈夫なんだ」

 エルは、本来ならば過去に死んでいるはずの人間なのだ。助けたいと願った過去を思い出した時から、ここから帰れない決意は出来ていた。