人間とは違い、所内で愛される珍妙なペットは、訪問した若き所長によく懐いた。彼が廊下を歩くと、いつもその後をついて回り、特に彼の手を舐める事にご執心だった。

 その所長は、所内にある普通の資料庫と図書室を一日に数回往復し、トイレと食事の他は出て来なかった。どこに寝泊まりしているのか、いつ施設を出入りしているのかの目撃情報も少なかった。

 しかし、ある日、ハイソンは明朝に資料庫に入った際、窓辺に寄りかかる彼をみつけて思わず悲鳴を上げてしまった。

「わぁッ!? ――びびび、びっくりしたぁ……あの、どうしたんですか、こんな早い時間に?」
「ん……? なんだ、もう朝なのか」

 施設内は二十四時間稼働であるから、締め出される事はない。しかし、朝も明け始めない時間帯に図書室を使用する人間は、この施設内にはほとんどいなかった。

 若い所長は、どうやら普段の性格は、かなりぼんやりしているらしい。ハイソンが見る限り、薄い緑のシャツと玉柄のネクタイ、白いコートは昨日と同じ服装だった。