「この人、貴方がさっき言っていた、取り込まれてしまった精神体の人？」
『残念ながら、彼は少しばかり違います。強制収容された人間は、それぞれが『エリスの世界』を見させられているだけなので、正規ルートから入っていない私達を認識する事が出来ないのですよ。取り込まれた精神体は人の姿できちんと反映されますが、先程貴女が目撃した人間達は、夢も見ない早々に取り込まれた為に、姿が反映していなかったのでしょう。――彼もそのうちの一人ですが、他の人間とは状況が違います』
「この人、俺の事を認識出来ているみたいだけど。それに、違うってどういう事？」
『ああ、彼はですね。恐らく、『エリス・プログラム』の稼働するラボの真っただ中で、うたた寝でもしてしまったのでしょう』

　ホテルマンは、まるで現場を確認したような物言いで嘲笑った。

『ははははは、阿呆ですねぇ。本当に考えられません。いやぁ、本当に救えない阿呆です、彼は。……全く、ハイソン君は何をしているのやら』

　どうやらホテルマンにとって、この煙男は、予想外の珍客であるらしいとは理解出来た。

　というか、阿呆って二回も言ったな……

　エルは状況が今一つ見えて来なかったが、ホテルマンは外の件でも動いていた事もあるので、恐らく知っている研究員なのだろうとも考えた。とりあえず、うっかり入りこんで来てしまった研究員である事は認識した。