エルは、その戦闘兵器が事切れた事を確認した後、素早く辺りに目を走らせた。他に同様のタイプの敵の姿はないようだ。何処からか地響きと戦闘音はするので、近くに似たような兵器、もしくは敵がいる可能性はあるが、すぐに襲われる心配はないだろうと判断する。

 ボストンバッグを確認すると、クロエも無事だった。エルが彼女の頭を撫でてやると、クロエは嬉しそうにエルの手に鼻先をすり寄せ、それから辺りの状況を見やった。クロエは場の空気を読んだのか、そそくさとボストンバッグの中に身を隠してしまった。

 エルは、改めて煙男に向き直った。

 煙男は、こちらを眺める形で尻餅をついていた。白い煙で出来た人間形の線が、風に煽られて揺らいでいた。

 幽霊のような男と目線を合わせるように、エルは一度、しゃがみ込んだ。

「外って、今どんな状況になってるの?」

 エルが尋ねてみると、男は動揺した様子で口の開閉を繰り返した。

 やはり、声は出ないらしい。エルは片耳に手をあて「ホテルマン」と慣れた方の名前で呼び掛けた。