主任の元教え子で、現在は別の研究所の所長を務める男がやって来たのは、ハイソンがその施設で四年の歳月を過ごした頃である。
所長クラスの中でも、その男はかなり若手だった。その容姿を見る限りでは、ハイソンとは十年ほどしか開きがないように思われたが、主任が言うには、頭の出来が違う天才との事だった。
医学・解剖の専門研究を経て、今はメスを握る事の少ない軍の研究所を任されているのだという、異色の経歴を持ったその男は、現在進めている研究の資料閲覧の為に訪問していた。
彼はちょっとした変わり者なのだと、主任以外の人間は、若い所長に対してよそよそしかった。
「何が変なんだ? なんだか大人しそうだし、別に痩せすぎているわけじゃないし、マッド・サイエンティストみたいな危険な匂いもしないし、僕みたいに眼鏡をかけた色白の短足デブでもないし?」
「ハンソンは呑気だよなぁ。お前は激太りしている訳でもないし、大学院時代の写真だっていい感じで写ってただろ。あの人はさ、ああ見えて凄腕の解剖術を持ってるとか、色々黒い噂が絶えないんだよ。まるでその悪評を挽回するみたいに、最近じゃあ進められている研究のテーマが、ちょっと夢見がちというか、ロマンチックというか……まぁ、珍しいとは思うぜ? 軍の管轄する研究所らしいが、本音をいうと、皆へたに軍には関わりたくないというか……」
同僚は言葉を濁した。
ここに所属している人間は、軍に関わる事や、科学では解明されていないテーマには触れたくないらしい。全員がハイソンより七年以上も上の先輩だったが、以前この施設で行われていた研究組織について、他にもよからぬ噂を聞き知っているのかもしれない。
軍の深い闇には触れたくないというのが、正直な感想だろう。実際に若き所長と言葉を交わした経験はない者達であり、ただの噂話しだとハイソンは思った。
所長クラスの中でも、その男はかなり若手だった。その容姿を見る限りでは、ハイソンとは十年ほどしか開きがないように思われたが、主任が言うには、頭の出来が違う天才との事だった。
医学・解剖の専門研究を経て、今はメスを握る事の少ない軍の研究所を任されているのだという、異色の経歴を持ったその男は、現在進めている研究の資料閲覧の為に訪問していた。
彼はちょっとした変わり者なのだと、主任以外の人間は、若い所長に対してよそよそしかった。
「何が変なんだ? なんだか大人しそうだし、別に痩せすぎているわけじゃないし、マッド・サイエンティストみたいな危険な匂いもしないし、僕みたいに眼鏡をかけた色白の短足デブでもないし?」
「ハンソンは呑気だよなぁ。お前は激太りしている訳でもないし、大学院時代の写真だっていい感じで写ってただろ。あの人はさ、ああ見えて凄腕の解剖術を持ってるとか、色々黒い噂が絶えないんだよ。まるでその悪評を挽回するみたいに、最近じゃあ進められている研究のテーマが、ちょっと夢見がちというか、ロマンチックというか……まぁ、珍しいとは思うぜ? 軍の管轄する研究所らしいが、本音をいうと、皆へたに軍には関わりたくないというか……」
同僚は言葉を濁した。
ここに所属している人間は、軍に関わる事や、科学では解明されていないテーマには触れたくないらしい。全員がハイソンより七年以上も上の先輩だったが、以前この施設で行われていた研究組織について、他にもよからぬ噂を聞き知っているのかもしれない。
軍の深い闇には触れたくないというのが、正直な感想だろう。実際に若き所長と言葉を交わした経験はない者達であり、ただの噂話しだとハイソンは思った。