「お前は『使う』な。こいつの過去が喰い尽されるなんて、俺はまっぴらなんだ」

 サンダルで小石を蹴りあげたオジサンが、ズボンのポケットに手を入れたまま、そう唇を尖らせた。

 『器』となった人間の過去を糧とするモノ。人からは決して生まれない、何も存在しない濃い闇の中で形作られた異界のモノ――

 けれどオジサンは、難しい話を「理解できるか阿呆ッ」と全て投げ出すような人だ。そして『彼』もまた、自分が属する世界の『理』を多くは教えなかった。あちらの『理』は、物質世界に多く持ちこめない決まりもあったのだ。

 ルールに則って生きる存在は、『理』さえ踏み外さなければ、人にとって驚異ではない。

 『表の子』は物質世界に近い為、正しく育たない事がある。正しく実を付けられない枝先は『未来』を喰らい始め、理の定めた道筋を外れてしまう。その為に、闇に属するモノたちが存在していた。

 あちら側の闇の意思を統べる者に、知らない事は何もないはずだった。しかし、『彼』は最近、ずっと考えているのだ。理屈にも言葉にも表せないこのもどかしさは、一体何だろうか、と。

「――出来るだけ、喰わないよう努力しているつもりです」
「なんだと? おい、もう一回言ってみろ」