数秒後、ホテルマンが「やれやれ」と肩をすくめて、スウェンの方へ顔を向けた。

「どうにも、厄介な事になりましたねぇ……『小さなお客様』が、一番乗りでタワーの近くについたようです」
「小さなって……あ、エル君の事か! 分かるのかい?」
「我々は『宿主』から切り離される事はないですから、居場所ならすぐに分かります。彼女の近くで二体の生体反応を感じますので、恐らく肉体ごと入りこんでいる男と、お探しの少女ではないかと思われますが」

 しかし、ホテルマンはそこで、不味い物でも食べたような顔をして言葉を切った。

 スウェンは、途端にエルの身が心配になった。この男は、自分の都合とエル以外の事は微塵すら気にしないだろうから、彼が作り物じみた雰囲気を壊して、表情を歪めるのも全てエルに関わる事だろうと察せたせいだ。

「エル君か? 何か、まずい展開になりそうなのか?」
「……まさかとは思いますが、そうならない可能性もなくはないかな、と考えてしまったものですから」

 ホテルマンは、要領を得ないような呟きをこぼした。

「――それで、貴方様はどうなさるおつもりですか?」
「勝手に話を切り替えるなよ、クソッ」

 スウェンは小さく舌打ちした。このホテル野郎は、まさに自分勝手である。複雑怪奇なルールがあるせいかは知らないが、スウェンが知りたい全部を開示しない傾向にある。