「何をしたのか、君の口から説明してもらってもいいかい?」
「面倒になったので、手っ取り早く『過去の記録』を再生し続けているバグを消しました。後は、あなたが『亡霊』だと認めているイレギュラーな登場人物達が残されている程度でいすが、こちらは勝手に解決しますから」

 あっさりと言ってのけているが、そんな事は普通なら有り得ない。

 とはいえ、現実世界の常識で考えたら、大変な思考の迷路に陥る事になるだろう。スウェンは、目頭を丹念に揉み解して時間を稼ぎ、どうにか自分を落ち着けた。

「――どうして、今まで行動しなかったんだい?」
「先に申しましたでしょう。今の『私』には、何も出来ないのです。期待するだけ損ですよ」
「それは、出来る限りしたくないという事かい?」

 スウェンは疑問を覚えて、そう問いかけた。

 少し前から、ホテルマンから時々感じる畏怖には気付いていたのだが、ログに『夢人』かと問われた彼が、「否」と答えた時から、彼には『力』とやらを行使する事が出来ない理由があるのではないか、とそんな違和感を持っていたのだ。

 ホテルマンを見てきた限り、戦闘能力値はかなり高いだろうと思われた。

 しかし、生物を食うという森で『エリス・プログラム』から妨害行為を受けたと告げた際にも、ホテルマンは、夢世界の住人としての能力は一切見せなかった。エルが木々の檻に閉じ込められた時、まるで人間のように、必死に手を伸ばしていた事を、スウェンは思い出した。

 スウェンは、そこで一つの推測に思い至った。

 これまでのホテルマンとのやりとりが、スウェンの脳裏に次々と思い起こされた。少ない情報が点と点を結び付け、あっという間に一つの憶測を作り上げてしまう。

 そこで気付かされたのは、ホテルマンという男が、必要最小限の嘘以外は口にしていない事実だった。