研修期間が終わった頃、すべての資料はデータ化と整理がすっかり仕上がっていた。

 ハイソンは自己主張をあまりしない男なので、大勢の中にいると埋もれがちだったが、技量や技術の吸収や取得も異常なほど早かったから、人手不足になった部署では密かに重宝されていた。

 希望するような部門に空きがあると聞いたのは、ちょうど、彼が研修期間を終えた頃だった。入る事を決めて、その施設を訪れた時に知った事は、戦争に使える道具や、戦争に有利に働く人材の研究が行われていた、という黒い歴史が残った研究所だった。

 生物兵器、人体実験など、詳細は不明だが、そのうちの一つの施設だったらしい事は説明された。少し前まである研究が進められていたものの、事故が発生し、地下施設は閉鎖され埋められてしまったのだという。

 詳細は知らない方が身のためだと上の人間に牽制され、尚且つ、秘密厳守である事を宣告されて同意書にもサインを取られた。

 大きな研究痕跡はすべて処分されていたが、当時使用されていた研究資料のいくつかは、そのまま残されていた。口外はされていないものの、当時稼働していた組織が細々と存続し研究も続いているのでは、という都市伝説も密かに噂されていた。

 非人道的な研究は既にされておらず、人を殺す事を第一目的とした製造も停止されている。

 戦争兵器として使用可能なテーマは、既にこの施設では完全に封鎖されていたが、生き証人はいた。猫だかウリボーだか分からない、えらく愛嬌のある混合生物のペットが一匹、我が物顔でオフィスを自由に動き回っていたのだ。

 その珍妙な生物は、豹のような柄をした子犬ほどの生物で、羊のような声で鳴いて、よく研究員たちに餌をねだった。生きた虫しか食べないというのも妙な感じだが、外に大量にいるバッタが好物だったので、常に生きたバッタが飼育籠には補充されていた。