「うっかり居眠りしてしまうと意識がこの世界に引っ張られてしまう、ぐらいですかね」
「なんだか、とぼけられた気がするんだけど」

 スウェンは訝しげに見据えたが、ホテルマンが自然な様子で視線をそらした。

「君の方で、何か策でもあるのかい」
「おや、そこを『推理』してしまいましたか」
「何となくだよ」
「迷い込んでしまっている意識については、『外』の人間が『エリス・プログラム』の主導権をいくらか奪還出来れば、自然と剥がれていきますから、ご安心ください」

 深く訊くな、ということか?

 先手を打たれた気がして、スウェンは眉を顰めた。しかし、その件がハイソン側でどうにかなると言われても、『亡霊』の正体の半分である『過去の記録』の再生が厄介な存在である事に変わりはない。

 そんなスウェンの思案を眼差しで察したのか、ホテルマンがその視線を横顔に受け止めながら、「そうですね、これはこれで厄介な現象ではあります」と認めるように言った。


「この世界は、予定していた以上に色々と歪み過ぎていますし。――この記録の再生も、厄介ではある」


 ホテルマンの声が、冷気を帯びてスウェンの耳朶を打った。

 スウェンは、剣の切っ先を喉に押し当てられたような殺気を覚えた。スウェンの軍人としての生存本能が、隣にいるホテルマンを危険だと警告し、悪意とも殺意とも取れない濃厚な気配が、押し潰すようにスウェンの身体を圧迫した。

 ホテルマンは、ゆらりと立ち上がると、どこともつかない場所へ目を向けた。僅かに陰る冷酷な横顔が、スウェンには、知らない男のものに見えた。