スウェンは彼を見た途端、一気に落胆してしまった。

「なんだ、君だったの……」
「なんですか、露骨に失望したような顔をされて。ショックで誰かの心臓を止めてしまいたいほど私は悲しいですよ!」
「ああ、結局は君の心臓ではないんだね」

 相変わらずホテルマンの面倒な性格は健在のようで、スウェンは遠い目で適当に相槌を返しつつも、何故だか安堵を覚えた。

 ホテルマンが彼の隣から、騒ぎの中心の様子を確認した。

「親切なお客様、アレを狙っても徒労損ですよ。彼もまた、我々が到着する前の『記録の残像』にすぎないのですから」
「あれが残像だって?」

 嘘だろ、とスウェンは、思わずマルクの荒れ狂う様子を目に止めた。

「夢世界では、心あるものが投影されてしまう事は説明したと思いますが、――『仮想空間エリス』は今、プログラムに残されているデータ記録が崩壊の衝撃で狂い、世界の時間軸も歪んでしまっているのです。あの男の強い思いや願望が、彼の身体に収まりきらず、記憶残像として、歪んだ空間内で勝手に動き回っているのですよ」