立ち込める黒煙と消炎が、見通しを悪くしてしまっている。

 迷彩服を着込んだ軍人が脇から飛び出し、逃げ惑う民間人を押しのけて銃器を構えた。彼らを迎え撃つのは私服のテロリスト達で、分かりやすい的のように、全員が髑髏マークの入った黒いマントを着ていた。

 流れ弾に当たった人間や撃ち殺された軍人達は、支柱の崩壊と同じように、灰のように崩れ落ちながら消えていった。人以外の物だけが、仮想空間に再現されたまま残されている現状を見て、これは演習その物の風景だろうとスウェンは察した。
システムに生じたバグが、当時の演習風景の記録を再現している?

 上空からヘリコブターの羽音が近づいて来た。どこからともなく飛んできた砲弾が、スウェンの頭上にまで迫っていた空軍機に着弾し、炎上した。

 爆風で吹き飛ばされたスウェンは、近くにあった剥き出しの鉄筋に掴まり、何とか壁への衝突を回避した。息もつかずに、彼は隠れられる次の場所への移動を開始し、走った。

 スウェンの聴覚は、既に、先程聞き覚えてしまった最新兵器の稼働音を拾っていた。

 スウェンが身を隠してすぐ、マルクが拡声器越しに怒号する雄たけびが聞こえて来た。

 テロリストも軍人も民間人も、対地上用戦闘機MR6が数メートルの距離に迫ったところで、ようやく初めて存在に気付いたように反応した。

 どうやら、演習実験の記録が起こした亡霊でしかない彼らにとって、シナリオに含まれない未知の兵器は、悪魔の化身に見えたらしい。得体のしれない二足歩行型の対地上戦闘兵器MR6に向かって、勇気ある軍人とテロリストの一部が、共同作戦に打って出たように発砲と爆撃を始めた。