セイジがアリスを、ログが塔を一直線で目指す事を考えると、スウェンもアリスの件はセイジに任せて、塔へ向かう道筋が決まった。アリスを現実世界に連れ戻す方法に関して、ハイソン達がきちんと準備を進めているのか、確認する必要もある。

 潜入前の説明では、『仮想空間エリス』にスウェン達が踏み込み次第、『エリス・プログラム』の一部の機能を奪還し、『外』への出力をオンにする手筈だった。生身の人間も帰還が可能であるのかは机上空論だが、マルクが既にやってのけているのなら、救出する為にはやるしかない。

 ハイソン達と連絡を取るためにも、スウェンは考えつつも、塔のある方角を目指して慎重に足を進めた。

 しばらく歩いていた彼は、不意に強い悪寒を感じて立ち止まった。

 足元から突如として、この世界が信じられなくなるような、おぞましい空気の変化を全身に覚えた。

 その直後、大地が音もなく空気を震わせ、脳を激しく揺らすような衝撃が襲った。まるで自分という人間の存在が、根底から崩されるような吐き気が込み上げる。平衡感覚が狂い、うまく立っていられなかった。

 精神を保とうと集中し、目を凝らしたスウェンの視界が、テレビ画面に走るノイズのように――一瞬、ブレた。

 途端に身体から圧力が離れ、知らず堪えていた吐息が、ほぅっと口からこぼれ落ちた。

 騒がしい無数の音が彼の鼓膜を叩き、スウェンは数秒ほど、目の前に突如として現れた光景が信じられで硬直した。先程まで廃墟と化していた街には、爆音と轟音がひしめき、多くの人間が悲鳴を響かせていた。

「――なんだ、これは」

 逃げ惑う人間は、どれも西洋人だった。伽藍としていたはずの街の時間が巻き戻ったかのように、あちらこちらから炎と黒煙が上がり、アスファルトには破壊された車や戦車、墜落したヘリコプターや瓦礫、大勢の人間の大移動で雑踏としていた。