正直なところ、ここへ来ればすぐにでも、アリスが見付けられるのではないかという甘い考えがなかった訳でもない。スウェンがセイジから報告を受けた印象では、彼らの元へアリスを届けてくれる、何者かの存在があるとの事だったからだ。

「甘い考えだったかなぁ……」

 スウェンは街を見降ろしつつ、途方に暮れた。

 もう一つの疑問点を上げるとすると、先程マルクが、アリスを探している様子がなかった事だ。マルクの計画には、既にアリスが必要ないという事か、もしくはアリスが何者かに連れ出された事を、マルクが微塵も考えていないか――

 マルクは何やら忙しい身のようであるので、後者の可能性も捨てきれない。そもそも、アリスが既に殺されている可能性については、ログの手前、考えないようにしていた。
 
 仮想空間を作り上げている心臓である『エリス・プログラム』は、きっと、中心地に建つあの塔の中だろう。

 電力稼働が続いている筒状の塔とは、どこか巨大な支柱を思わせる存在であるし、格好の目印であるので、他のメンバーも、一目で最終目的地が分かるに違いない。そう考えると、合流も難しくないように思えて来た。

 スウェンは、まずは自分を落ち着ける事にした。

 この世界で起こり進められている事を把握し、いかに効率よく迅速にアリスを救出し、任務を遂行するか考える。邪魔なようなら、マルクの処分も優先順位に加えられるが、今は自分が起こすべき行動を決めなければならない。

 思考を続けながら、スウェンは非常階段を下りた。チームがそれぞれ、遠う地点に飛ばされているとすると、全員でまとめて一つずつの優先順位を手早く済ませていく事は出来ない。

 セイジはやたらと引きが強い事もあり、不思議な少女に出会ったのも彼であるので、もしかすると、本人が意識せずとも、セイジが真っ先にアリスの元へ到着する可能性もある。ログには大きな目印のない探し物は不可能であり、すぐに迷子になって逆切れする事を本人がよく知っているので、彼はアリスの件をセイジに任せて、手っ取り早く目的地を目指すはずだ。