スウェンの頭脳は、あらゆる推測の膨大な可能性を提示し始めた。

 考えればきりがないし、まるで絞り込めない。この世界の全てを理解している訳ではないので、当然だろう。

「――ああ、なんだってんだよ、クソ」

 悪態を吐くなんて下品な事はしたくなかったが、スウェンは堪らず吐き出し、歯痒さを思った。材料になった人間が、亡霊のように仮想空間内を彷徨う可能性について、ホテルマンに訊いておけばよかったな、と少し後悔した。
 
 地響きが遠く離れた後、スウェンは慎重に探索を始めた。

 しばらく歩いてみたが、朽ち果てた高層ビル群ばかりが目に止まった。資料で見ていた都市型軍事演習場を広範囲から確認するべく、高い場所を求めて、ビルの外付け非常階段を上ってみた。

 スウェンは、階段上部から町並を眺めた。

 設計上、中心地街に進むごとにビルの高さは低くなっているはずだったが、その中心地に、報告になかった巨大な塔が聳え立っているのも確認する事が出来た。

 全ての電力が途絶えた街で、中心地にある巨大な塔だけが様々な色の電光を灯していた。赤、青、緑、と誘導灯のように不規則な光りを放つその塔は、円形状となっており、全て機械で出来上がっているようだった。塔の先端は雲まで伸びており、先が見えないでいる。

 目測だけ軽く見積もっても、塔までの距離は二十キロメートル以上ありそうだった。

 塔の向こうにも、静まり返った街の影が佇んでいるのが見て取れた。連絡手段すらない広範囲の敵地にて、チームが離れ離れになってしまっている状況が悩ましいところだ。

 上から見降ろす街は、暴動が起こった後のような爪跡も目立った。一部の建物は崩壊し、地面が大きく抉られていた。最後に使用された際の光景が、リセットされずに残っているのか、プログラムの崩壊による弊害なのか、マルクが手を加えた為なのか、スウェンには判断出来なかった。