スウェンの中には、マルクが『バグ』と評している現象について、もう一つの仮説も浮かんでいた。

 それは、ホテルマンが言っていた『心が投影される』という現象である。材料してマルクに殺された人間もそうだが、関わった多くの人間の記憶や想いといった、『心』が宿った映像が投影されるらしい現象だとしたら、どうだろう。

 この『仮想空間エリス』には、実際に試験運用されていた過去の記録も、データとして残されているはずだ。現実的ではない、そんな不可解な現象が『仮想空間エリス』で次々と起こっているとするならば、マルクの驚き振りも腑に落ちる。

 スウェンとしても、そんなファンタジーな現象は信じない派なのだが……先程、最後のセキュリティー・エリアで、半透明の青年が空に飛び出して行くのを目撃している。

 物事を否定するのは簡単だが、根拠も証拠もない状態で、否定とは成立しない。
つまり、未知の『夢の住人』達がで出た来た時点で、一般常識だけでの考えは捨てなければならなくなっていた。

 スウェンは状況を把握するべく、『仮想空間エリス』で起こっている不可解な現象について考えた。

 先程殺された女性が、自分の意思を持って、マルクから逃げていたように見えた事から、ホテルマンの不思議な投影説である『亡霊の如く現れて消える』という類の物には、少々当てはまらないようにも思う。

 つまり、あれはホテルマンの語った不思議現象そのものではない。

 仮想空間に設定されたエキストラは、死んでも『燃えて消える』ような消失はしない。あれでは、まるでログが支柱を壊した時の症状に似ていた。そうすると、彼女はエキストラでもないし、かといって、スウェン達のように、空間内にリアルに身体を投影された存在でもないとなる。