マルクは建物の影に潜むスウェンには気付かず、口の中で独り事を続けながら、対地上用戦闘機MR6の足を、別の方向へと進め始めた。機体が一歩踏み出すたび、荒れたアスファルドに散乱する瓦礫やガラスが砕かれ、鈍い地鳴りを上げた。

「……外にいる頭の悪い連中が、何かしでかしたのだろうか…………いや、入り込んだあいつらがプログラムの支えを崩したせいか? ……もう少しなのに数値が安定しない…………害虫が出るせいだろう……システムが誤作動を? そんな馬鹿な……バグに違いない、プログラムの制御は完全ではないのだから…………取り除けば……も完成するだろう」

 スウェンは、去っていくマルクの声を聞いて、素早く思案した。

 先程、マルクが仕留めた人間が『害虫』という事だろうか?

 血も出ない点を考えると、立ち位置としてはエキストラとも思われる。しかし、白衣という姿がスウェンは気になっていた。仮想空間の登場人物ではなく、外の人間が投影されてしまっている可能性はないか。

 いや、そうすると、どこから入り込んだのかという問題点に辿り着く。それに、殺されてしまった女性は悲鳴の一つも上げなかったではないか。

 もしくは、マルクが仮想空間に使って死んだ、人間達の亡霊が現れるとでもいうのだろうか?

 詳細は不明だが、『仮想空間エリス』で、何かしらの不具合が発生しているのは確かだろう。

 マルクが成し遂げようとしている何かの完成が間近の所で、例えば、唐突に環境変化が起こって、彼の目的が阻害されている可能性もある。スウェン達が、これまでの仮想空間で遭遇したような想定外の『理』やら、『夢の住民』が関わっている可能性も捨てきれない。

 科学者は、きっとその不可解さを認めない。

 マルクも、数式や原理で説明出来ないものを信じないからこそ、彼なりに物理的な行動を起こしているとも推測出来る。