「えぇ、違いますとも、『親切なお客様』。この空間は、本来であれば人が渡る事の出来ない、我々の世界の領域なのです」
ホテルマンが、私情の読めない顔で一同を見渡した。
「あるべきはずの扉が、あちらこちらに入り乱れている状況です。皆さん、どうかエリスの世界へ入った際には、落ち着いて下さい。慌てなければ、自分を見失う事はないはずですから」
スウェンが口を開きかけた瞬間、――列車の先頭から、激しい光りが走った。耳元で大きな音が鳴り響き、前触れもなく爆風が吹き荒れた。
息も出来ぬほどの強い風が起こった。目を開けていられない荒々しい風が吹き抜けて、全身を激しく叩く。
エルは、まるで五感を宙に投げ出されるような感覚を覚え、一瞬、自分の居場所を見失いかけた。
しかし、不意に風が止んだ。
どうしてか、焼けたアスファルトと、湿気を含んだ鉄臭い匂いが鼻をついて、エルは恐る恐る目を開けた。
彼女は一人きり、ボストンバッグを身体に提げて、荒廃した都心の真ん中に立っていた。
懐かしい濃厚なその気配を全身に覚えた時、忘れていた過去の一つが、唐突にエルの中に蘇り、息もつけぬ速さで彼女の脳裏を貫いた。
ホテルマンが、私情の読めない顔で一同を見渡した。
「あるべきはずの扉が、あちらこちらに入り乱れている状況です。皆さん、どうかエリスの世界へ入った際には、落ち着いて下さい。慌てなければ、自分を見失う事はないはずですから」
スウェンが口を開きかけた瞬間、――列車の先頭から、激しい光りが走った。耳元で大きな音が鳴り響き、前触れもなく爆風が吹き荒れた。
息も出来ぬほどの強い風が起こった。目を開けていられない荒々しい風が吹き抜けて、全身を激しく叩く。
エルは、まるで五感を宙に投げ出されるような感覚を覚え、一瞬、自分の居場所を見失いかけた。
しかし、不意に風が止んだ。
どうしてか、焼けたアスファルトと、湿気を含んだ鉄臭い匂いが鼻をついて、エルは恐る恐る目を開けた。
彼女は一人きり、ボストンバッグを身体に提げて、荒廃した都心の真ん中に立っていた。
懐かしい濃厚なその気配を全身に覚えた時、忘れていた過去の一つが、唐突にエルの中に蘇り、息もつけぬ速さで彼女の脳裏を貫いた。