白い列車は、次第に高度を上げて空を進んだ。

 昇るほどに空は暗くなり、列車は、しばらくもしないうちに大気圏を抜けた。大小様々な岩が漂う暗闇を、列車は白い輝きを放ちながら上昇し続けた。遠くなった地上の灯りは闇の中にぼんやりと佇み、霞み始めてしまう。

「おい。大丈夫なのか、これ」

 ログが懸念の声を上げた。辺りは、既に真っ暗闇だった。

 闇に浮かぶ岩や石の中に、剥き出しになった鉄筋コンクリートや、壊れた木材の欠片が混じっていた。

「外の闇に、その身を放り出さない限りは安全です」

 ホテルマンが、そう切り出して一同を見やった。

「『仮想空間エリス』は、現在、ひどく不安定で周囲から崩れ始めています。崩れ落ちた世界は、その周囲から少しずつ溶かされ闇に呑み込まれる――闇に姿形はありませんが、彼らは全てを喰らう事だけを許されています。だから人が触れるべきではないのです」
「ここは、仮想空間ではないとう事かな?」

 疑問を覚えたように、スウェンが眉を寄せて手短に訊いた。ホテルマンは肯くと、先程の苦戦が嘘のように真っ直ぐ立ち上がり、どこか真剣な眼差しを車窓へと投げた。