スウェンが腰かけた椅子にしがみ付きながら、目の前の柔らか過ぎる床に腰を下ろしているログをみて「うわぁ」とぼやいた。

「……ログ、大人げないよ?」
「煩ぇ。そもそも、さっきお前が飛び跳ねなきゃ、俺は転がらなかったんだ」
「え~、それは君の思い過ごしだよ。僕は自分がきちんと席につけるよう、計算して踏み込んだだけだからね」

 それは結局のところ、身体を支える為に四苦八苦していたログとセイジの体重を、スウェンが利用したという事では……?
エルはそう気付いたが、ログ達が強く文句を言わない様子を見て、心にとどめておく事にした。

 全員が着席したところで、列車が汽笛を上げた。車体下からドラゴンの吐息のようなキラキラと輝く色彩豊かな蒸気を上げ、扉がゆっくりと閉じられた。

 白に覆われていた車内の両サイドに、唐突に窓が浮かび上がった。車体がふわりと浮かび上がると同時に、澄んだ透明な青の世界が車窓に飛び込んで来る。窓は触れてみると氷のように冷たかったが、人の体温をもっても、曇り一つ残さなかった。

 エルの向かいの席には、セイジ、スウェン、ログが腰を落ち着けていた。車体が飛び上がると同時に、彼らの足元に転がり落ちたホテルマンが、手足を動かせて、どうにかエルの隣の席へと身体を持たれかけた。

 窓の外を眺めるエルの隣には、同じように、遠くなってゆく地上を眺めるクロエの姿があった。