北の方角の空から、一つの列車がやって来るのが見えた。まるで白い竜が鱗を煌めかせて舞い降りてくるように、星の欠片のような光りを散らせながら走る列車の光景に、エルは思わず目を丸くして凝視した。

 美しい装飾が施された列車の車輪が、エメラルドや黄金の輝きを地上に落としながら、空を滑るように進んで来る。

 目を凝らすと、光り輝く硝子のレールが、列車の前方に形作られているのが見えた。車輪が全て通過すると、レールは輝きを放ちながら崩れ落ちていたので、空に響き渡る美しい音色は、そこから発生しているようだとも察せた。

 列車は汽笛を上げ、虹色の煙を噴き上げながら、連なった長い車両を引き連れて地上を目指した。車体の側面には薔薇の彫刻が施され、並んだ窓は銀色で通過性がなく、全てが磨き上げられた列車は、細かなダイヤを散りばめたようにきらきらと輝いていた。

 白い列車は、次第に速度を落としながら高度を下げると、駅の前で緩やかに停車した。

 ブレーキが掛かった際、車体の下から吹き上げた白い煙には、赤や黄色や緑、淡いブルーの色が混じっていた。巻き起こった風は、まるで雪国の吐息のように冷たかった。
 
 五人が用意を済ませて立ち並ぶと、列車の扉が開かれた。

 誰もいない車内は十畳ほどの広さで、結合された他の車両へ渡る扉も付いていなかった。窓際に横付けにされた長椅子があるだけで、大きな外観に対して、室内はやけにこじんまりとしていた。

 ホテルマンに「レディー・ファーストです」と促されて、エルは、車両の手すりを掴み、列者の搭乗口の大きな段差に足を掛けた。