ホテルマンは、エルの腕の中にいるクロエと目合わせた。幸福そうに微笑む優しい緑の瞳が、やけに目に沁みた。

 ああ、強い願いを秘めた、美しい『夢』を持った女性だ。

「……貴方達がどう思おうと勝手ですが、残念ながら『私』は決して、人間が口にするような『善人』にはなり得ないのですよ」

 それが全てで、それが真実だ。始まりから既に終わりは決まっていて、彼はそのために寄越されてココにいる。

 けれどもし、芽生えたこの不可解な『願い』が、人間でいうところの心なのだとしたら、ホテルマンは、本当は――

 彼は、自身の白い手を見降ろした。エルに差し伸ばされた手を思い返し、初めて触れる事が出来た手の感触を思って、静かに指先を擦り合せた。

 その時、硝子の鈴がけたたましく打ち鳴らされるような、豪快な音が空に響き渡った。

          ◆◆◆

 到着の合図を告げるように、鈴や鐘が混じり合った硝子の鈴のような音が、空から大きく降り始めた。

 空気を震わせる音の大反響に、エルはびっくりして、クロエを抱いたまま空を仰いだ。