「ふふ、そうですねぇ。人間は、色々と名前をつけたがる生き物ですが、まぁ実のところ、私も少しだけ気に入ってはいたのですよ。もう使う事もないでしょうけれど――『ナイトメア』だなんて、私には勿体ない名でしたから」

 ホテルマンは思い出し、少しだけ笑った。あの機械の箱には、確かに『心』が宿りかけていたのだ。

 その機械仕掛けのちっぽけな物質は、人間と友達になれるのではないかと微かな『夢』を抱いてもいた。すぐに死に至るような儚い『夢』だったが、これまで見た事のない蛍火のように不明瞭な輝きを放ち、暗黒に居座るホテルマンを手招きしたのだ。

 はじめは、ただの気紛れだった。入りこんだ機械の箱の中には、これまで喰べた事もない不思議な味の『過去』に満ちていた。

 同時に、人間とは、ろくでもない物を造るのだなとあれほど思った事はなかった。異界のモノにとって、機械という代物は波長が合いやすく、相性が悪いのだと実感した。それが、結果として今回の悲劇を大きくしてしまったのだ。

 疲れたクロエを腕に抱いたエルが、こちらを振り返ったので、そろそろ戻ってくるようだと一同は察した。