「名前が沢山あったのか?」

 永く生きるという概念が理解出来ず、セイジは遠慮がちに訊いた。彼もログのように、難しいやりとりや思考を苦手としていたから、単純に思い付いた質問を口にするしかなかったのだ。

 スウェンは、その場を部下二人に任せて聞き手に回っていた。人間よりも遥かに賢いホテルマンには、彼らのような、特に人間らしい素直な感情のままの言葉が、一番効くのではないかと思えたのだ。

 そもそも、スウェンは、恥ずかしげもなく「ホテルマン」と呼べるエルの、幼いとも思える純粋な感性には尊敬を覚えていた。

 何故なら、スウェンなら恥ずかしくて、絶対に口に出来ないからだ。それは、ログやセイジも同じで、存在事態が未知で、そのうえ謎も多いホテルマンの『名前』の一つに関しても、好奇心が湧いた。

 ホテルマンは腕を組むと、「ふむ」と演技臭く首を傾げた。しばし逡巡するような間を置いた後、ふと思い出したように一人相槌を打った。

「ああ、そういえば面白い人間一人がいましたねぇ。機械に名前を付けて、あまりに愛しそうに呼ぶものだから、つい、私を呼ぶ時の名前として使うように言いました」
「へぇ、どんな名前だったの」

 スウェンは、一同を代表してそう質問した。