「で。お前は実際のところ、名前はなんていうんだ。不便でならねぇぜ」

 ログの突拍子もない質問に、ホテルマンとスウェン、様子を見守っていたセイジが、ほぼ同時に「は?」と揃って間の抜けた声を上げた。

 ホテルマンは、ぼんやりとした顔でしばらくログを見つめた後、とってつけたような眉を僅かに顰めて見せた。小馬鹿にするような表情だ、と見ていた一同にそんな印象を抱かせる表情だった。

「『夢人』は、想像された世界で『宿主』の姿と名を写し取りますが、私は『夢人』ではありませんから、名前なんてありませんよ。まぁ時代によって、色々と呼び名はありましたが ――」

 ホテルマンは皮肉気に笑った。しかし、ログは「だから何だ?」と、馬鹿だから分からん、と言わんばかりに真面目な顔で眉間に皺を刻み、スウェンが「ログらしいや」と苦笑し、セイジも笑った。

 返答を待たれてしまったホテルマンは、またして、そっと眉を顰めた。彼はポケットに手を入れ、珍しく礼儀を取り払ったようにベンチに背を持たれて姿勢を楽にすると、「そうですねぇ」と、どこか思案するように空を眺めた。

「――もう忘れてしまいました。あまりにも、長い時間を過ごしましたから」