スウェンは、痛い所を突かれて押し黙った。確かに彼は、エルと話をしたあの時、お互いが何者であるかを聞かない事を沈黙の中で決めた。エルは自身の事情に関しては、口に出したくないようだったので、都合が良いと考えていたのは事実だ。

 育て親を失ったという事は、エルは元より早いうちに、両親を亡くしたのだろうとも想定出来た。

 身内も友人も知人もなく、現在は自由気ままな一人と一匹の旅をしている、とエルは何でもないように語っていたが、――スウェンは、彼女が伏せているであろう真実が、少し気掛かりに思い始めてもいた。

 彼女の旅の目的は定かではない。

 けれど、簡単に命を投げ出してしまうような危うさを、年老いた猫を見つめるエルの優しい眼差しに、時々覚える事がある。身寄りもない状況で、彼女は何を考えて旅を続けているのだろうか?

「……君は、エル君絡みだと何でも知っているようだね。同時に、僕らの過去や思考についてもお見通しみたいだ。それが君の『能力』の一つである訳だね? ――つまり、僕を牽制しているのかな?」
「いいえ、滅相もございません。貴方様の中で、当初に持っていた思考が変化されたのかと、疑問に思っただけですよ?」

 思考が読めているのなら、変化はとっくにお見通しだろうに、とスウェンは苦々しく目を細めた。

 本当に、食えない男だ。だからこそ苦手でもある。