「そんな事、君に言われなくたって分かっているつもりだけど、なんでかな。こう、君がエル君を、どうにも守っているように感じたからだよ」

 スウェンはそこで、エルへと視線を戻した。ちょうどエルは、走り回るクロエを確保し抱き上げていた。

 顔を寄せて、猫と少女が笑い合う。

 どうやらエルは、また猫に向かって内緒話、というものをしているらしかった。たびたび、彼女達はスウェン達が眠っている、もしくは完全に注意を離しているだろうと察して、こっそり会話をしている時があるが勿論、全部筒抜けなわけで――

 気付いていないのは、エル本人だけだ。

 大きなベッドで四人一緒に寝た時も、スウェンは、エルが猫に語り聞かせていた独り言をハッキリと耳にしていた。一人と一匹の間で交わされるやりとりを、聞き逃しているメンバーは、もう一人もいないのだという事を、エルだけが知らないでいる。

 ああやって気取らない顔をして微笑んでいる時、彼女がより一層幼く見えてしまう事を、彼女自身気付いていないのだろう。その時だけ、スウェンには、気配も完全に少年だったエルが、ただ一人の少女に戻ったようにも見えた。

 猫に話しかけたところで、言葉が返ってくる訳でもない。

 それでも、エルは、心から楽しそうに猫に話し聞かせるのだ。こちらが気付かない振りをしている間に、自分が感じた事、思った事を素直に口に出来る相手は、いつも猫のりクロエだけだった。

「……猫じゃなくて、僕らに話しかけてくれればいいのに」

 きっと、何だって答えてやるだろう。スウェン達は、エルよりも長く生きて来たのだから、空の色の青さの不思議や、眼下で煌めく広大な海の美しさ、風の心地良さや、共感出来る全てを、多く話してやれるだろう。