「一つだけ、訊いてもいいかな」

 エルの様子を見つめたまま、スウェンがホテルマンに尋ねた。

「おや、一つだけでよろしいのですか? もっと騒がしい事になるのではないかと思っていたのですが」
「まぁ、そうしたかったのは山々だけど。――僕も、らしくないんだけどさ。そういう、ごちゃごちゃした事を考えるのを、一旦止めてみようと思ってね」

 スウェンは、背伸びを一つすると、足を組み直してホテルマンへ顔を向けた。

「ここまで付いて来たんだ。君も『仮想空間エリス』に用があるみたいだけれど、君の目的は何だい?」
「それが『私』に与えられた役目だからですよ、親切なお客様」
「それ、答えになっていないよ」

 スウェンが苦笑をこぼすと、ホテルマンは口だけで笑った。作り物の目は、一切の感情がなかった。

「それでは、私からも質問させて頂きましょう。あなた方はどうやら、私を少し過信されているようですが、一体どういう心境の変化なのですか? 闘う者として、もっと警戒された方がよろしいかと思われますが」