「ふうん。若いのに旅をねぇ。気になっていたんだけど、猫が仮想空間内に入っちゃうのって聞いた事ないなぁ」

 スウェンが小首を傾げ、どこか興味深そうにボストンバッグのクロエと目を合わせた。

 シミュレーション・システムは人間用である。すぐに馬鹿らしい発想だと眉間に皺を刻んだログが、先頭に立って「さっさと行くぞ」と注意した。それを見たセイジがぎこちなく笑い、スウェンとエルに「行こう」と促した。

「スウェン、システムの誤作動で動物が入り込んでも、大量でなければ報告は入らないと思う」
「成程。まあ、それもそうか。初めは動物で実験するものだし、不思議でもないのか」

 スウェンは、あっさり話を切り上げてログの後を追った。

 セイジが、ログの後に続いたスウェンを少しだけ目で追った後、エルに向かって、不器用な愛想笑いを返した。

「私たちがまずやるべき事は、アリスが連れて行かれた『エリス・エリア』まで進むことだ。この仮想空間は今複雑な造りになってしまっていて、目的地の周りを複数のセキュリティー・エリアが阻んでいるらしい」

 説明するセイジの向こうで、スウェンが「その話もこれからするけど」と言葉を投げて来た。