エルがクロエを引き連れて向こうへ行ってしまうと、辺りは再び静かになった。
スウェンが足を組み直し、チラリとホテルマンを見やった。

「珍しく静かだね。やけに大人しいじゃないか」
「そうでしょうか」

 ホテルマンは、張り付いた嘘臭い微笑みを浮かべて答えた。

「そちらの『大きなお客様』も、狸寝入りをしていらっしゃるようですが、それこそ貴方らしくはないのでは?」
「ふん。休める時に身体を休ませているだけだ」
「なるほど」

 ホテルマンは、表情を変えずに顎をさすった。

 しばらく言葉が途切れ、四人は、少し離れた場所を闊歩するエルとクロエの様子を眺めた。クロエは、エルの前を軽やかに進んでいたが、必ず後ろを振り返り、エルがついて来ているのか確認していた。

 まるで母親みたいな猫だ。スウェン達は、そんな不思議な印象を抱いた。

 対するエルも、足元に回りこんで進行の邪魔をするクロエに、楽しそうに笑いかけて話しかけている。こちらも、まるで人間に話しかけるような自然さがあって、スウェン達の目を引いた。