見晴らしの良い駅のホームには、当然ながら他の客の姿はなかった。三つのベンチに、スウェンとセイジ、ログ、エルとホテルマンがそれぞれ別れて腰かけた。

 現状、『仮想空間エリス』に入る為には、この世界の列車を使用する以外に入る術がなくなってしまっているのだと、ホテルマンは簡単に説明した。『仮想空間エリス』は周囲から崩壊しており、この世界の『夢人』が残した『夢渡り』の力を残した列車で、崩れた道を飛び越えて向こうに突入するしか方法はない。

 白い大地には、穏やかな時間が流れていた。列車の到着を待ちながら、それぞれベンチで暇を持て余した。

 待つ事に飽きたらしいログが、とうとう腕を組んだまま目を閉じた。

 疲労の為か、エスェンも思わず欠伸をもらした。セイジは来る列車を見逃すまいと、背筋を伸ばしたまま前方を見据えている。

 どれぐらい経った頃だろうか。

 エルが意味もなくコートの袖に触れていると、クロエが目を覚ました。ホテルマンが、どこからか意気揚々とブラシを取り出したが、彼女はするりと大地に飛び降りると、振り返り様にエルを誘った。少し、近くを歩きたいらしい。

「クロエ、散歩したいの?」
「ニャー」

 クロエは、肯定するように鳴いて、エルの足に身体をすり寄せた。

 エルが立ち上がると、ホテルマンが、礼儀正しく胸に片手をあててクロエに「私もお供してよろしいでしょうか?」と笑顔を見せたが、クロエは「にゃ」と顔をそむけた。

「――ふっ、仕方がないですね。二人きりの時間ですし、私はお邪魔にならないよう、ここで待っている事に致しましょう」
「その、なんか……ごめんな……?」
「いいえ、滅相もございません。振られるのも、良い男にはつきものでしょう」