先を進むホテルマンは、スウェンが説明する間、一切口を出さなかった。エルも、半ば一歩引いて三人のやりとりを見守った。

 エルには気になる事があった。スウェン達には話せないでいるのだが、『仮想空間エリス』のプログラムは、支柱のような単純な代物ではなく、ログの破壊の手でも完全に壊す事が出来ないモノである可能性に、――エルは薄々気付き始めていたのだ。

 先程のエリアで、ログは鼠の支柱を破壊したが、『夢人』であった少年には作用されなかった。ログは元より支柱を壊そうとしたのだから、結果的にいえば当然かもしれないが、発動に触れた少年について、エルはずっと考えている。

 もし、今の『エリス・プログラム』の稼働に、『彼女』が関わっているとしたならば、ログの破壊の力は……

 歩き続けた先に白い駅が一つ見えて来て、エルは、ふっと顔を上げた。

 小さな教会のような建造物があり、外側の雨避けの下には三台のベンチが並んだ待ち合い席があった。列車のレールは、どこにも敷かれていない。

 駅名もついていない白い建物には、大きな木の扉がついていた。扉の向こうにある物については既に予想が出来ていて、スウェンが合図するまでもなく、セイジが動いた。

 セイジが力を入れると、大きな扉は、これまで開けられた事がなかったような耳障りな軋みを上げて重々しく開いた。

 駅のホームが付いた建造物の中には、大きな銀色の機械が横たわっていた。仕上げられている機械の中心からは、様々な太さの電気ケーブルが伸びて四方の壁に繋がっていた。

 筒状をした銀色の機械には、小さな厚ガラスが付いており、ガラスの向こうに緑色の液体がたっぷり入っていた。機械が胎動のような稼働音を上げるたび、まるで呼吸するかのような気泡を上げる。