乗り気ではなかった友人が、偽装死亡させた子共に、新しい名前を考えてくれたという報告を受けたのは、その後だった。私は一時的にアメリカに帰国してしまった為、とうとう尋ねる機会がなかったので、彼女の新しい呼び名は知らないままでいた。

 年の離れた私の友人は、ネーミングセンスがいまいちだ。

 いや、最悪だと言ってもいい。以前、軍の敷地内で飼われていた軍犬に、適当に「ミミトンガリ」「チョイモヨウアリ」「ケムリギライ」と、ひどい呼び名を付けて、彼の生徒達が身悶えていた。

 それでも、ひどい名前は付けないだろうと見越して、私は子供の偽名については、彼は自分の名前の頭文字をとってつけた可能性を密かに考えていた。

 仮想空間に紛れこんでしまったという子共の名前が、エルだと、ハイソンから報告を受けた時から、私は居ても立ってもいられなくなっていた。
 
 つい最近亡くなった古い友人の名前は、ロレンツォ・D・ナカムラといった。

          ◆◆◆

 眼前には、どこまでも白い大地が広がっていた。

 夜空は頭上から突然色を途切れさせ、水を溶かしたような薄いブルーが始まっている。空気は乾いてやや冷たく、風はほとんど吹いていなかった。

 開けた土地は、ひどく閑散としていた。広大なだけに、美しい大地に何も無い、という光景には違和感が伴った。

「これから創造されるはずだった場所ですよ。――まぁ、『私』には知りようもありませんが」

 エルの問うような視線を受けてすぐ、ホテルマンがそう言った。

 すると、ログが顔を顰めた。

「お前も『夢人』とやらなんだろ?」

 ログがそう問いかけると、ホテルマンは、どちらともつかない笑顔で彼を見つめて「違いますよ」と静かな声色で答えた。