「――親はいないし、育ててくれた人とは死に別れた」

 どうにか、そう平気な顔で答える事が出来た。

 心が死んでゆくような気がしたが、一人身である事を明かす事で、スウェンの懸念を打ち払う目的もあった。彼が考えている口止めや、もしもの時の為の後処理を考えると、家族も知人も持たない身である事の方が都合がいいだろうと思えた。

 例え巻き込まれて死んでしまっても、自分が誰の迷惑にもかからない立場にいる事を明白にしておく事で、今後、エル自身も動きやすくなる事を計算していた。

 探りを入れられる前に、必要最低限の情報は開示する方が懸命だと思われたのだ。

 巻き込まれた際の経緯について、続けてスウェンから説明を求められたので、エルは、直前までの行動についても簡単に述べた。

 簡易宿泊施設を出て、国際通りを歩いていた事。少し違和感を覚えたあとで、例のホテルのランチバイキングへ参加した事……怪しまれないよう言葉数少なく、簡潔に、沖縄の北部から始まった雌猫クロエとの旅が、南へ向けて続いている事も話し聞かせた。