私は怖いのだ。どれほど簡単に生物が壊れてしまうのか、その肌がどれほど簡単に切り裂けるのか一番知っているから。

 友人は、歳を取っても相変わらず逞しい体つきをしていた。現在でも、襲いかかり来る闘犬の口に手を突っ込んで舌を掴み、主人は俺だと言い聞かせるくらい朝飯前らしい。昔見た時と違わぬ強い肉体が、私には憧れでもあった。

 預けた子共は、二週間ほどで表面の傷は完治していた。

 どうやら、恐ろしい速さで『修復』とやらは進んでいるらしい。子共は何もせず、縁側に腰かけて外を見ている事が多かった。その子の隣には、いつも一匹の黒猫が丸くなっていた。

 初めて見舞いに立ち寄った時、その子があまりにもじっと外を見ているものだから、私もついつい同じ方向へと目を向けた事がある。

 青い空に、一羽の鳥の飛翔が目に止まった。私は、『彼』はモニター越し以上の世界を知らなかったなと思い出して、「飛んでいるあれは、鳥だよ」と思わず声を掛けたが、途端に「痴れ者め」という一瞥を返された。

「私は世界の『理』を知っている。ただ、この目で見た事がないだけだ」
「……ああ、そうか。なるほど?」

 よくは分からない理屈だが、私は、『彼』がそういうのならと肯いておく事にした。

 出来るだけ使わない事に限るのだと説明し、最低限の生命稼働に必要な食事等は行いつつも、けれど『彼』は淡々と唇を動かせて、いつも無駄口は叩いた。外見は可愛らしい子共の物だから、私はその子の目を見るまでは、どちらが表に出ているのか認識が出来ない事が多かった。