彼女は最近、構築が進む仮想空間内を私に案内しながら、起きた時には覚えていない会話をする事が増えていた。仮想空間内で、彼女はまるで創造主のようだった。私が感動し褒めると、彼女は決まってこう言うのだ。

「だって、私は『表の子』としてあるんですもの。創り上げる事が出来ないなんて、あるはずがないもの」

 自信たっぷりに、まるで現実世界の彼女とは違って勝気に言ってのけた。彼女は、仮想空間に君臨する女王のようにも思えた。

 勿論、仮想空間から出た時に、一緒に入ったはずの彼女が覚えていない会話に関しては、私は当初から少し気になっていた。機械を通した話なので、多少なりとも情報の誤差はあるのだろうとは思いたかったが、私や、他のスタッフの記憶には同じ現象は見られなかった。

 しかし、私はその件に関して暫く忘れてしまう事になる。研究で大きな問題点が見つかり、死傷者が出てしまう事件が発生した為だ。

 私は、研究を廃止する事にした。けれど、上層部はしばらくの凍結を言い渡した。いずれ再会させるつもりなのだろう事は予想出来たが、私には止める事が出来なかった。

 結局、数年も待たずに研究は再開された。

 私は遅れてようやく、人が手を出してはならない領域に触れた事を知ったが、時は既に遅かった。まるでそのために用意されたような女児が、私のもとにやって来た。その後、私の妻は不運な事故に巻き込まれ、幼い娘を残して亡くなってしまったのだ。

 そう、私の妻である、エリスが死んだ。

 彼女なしでは、研究を進める事は出来ない。プログラムの構築は失敗だったのだと、私は、知らぬ者が読んで納得するような、でたらめな報告書を作り上げた。研究は、そこでようやく廃止の運びとなったが、もはや手遅れだった事を、私だけが知っていた。