「大きなエネルギーを必要とする『夢』は、一時的に稼働を止める事があります。『夢』そのものに強い力が宿っていようとも、その力の元である『夢人』と、器である『宿主』がいない事には、膨大なエルネギーは育たないのです」
「つまり、エネルギー不足だって事か。――今なら妨害無しで進めるという認識でいいのかい?」
「その通りですよ、『親切なお客様』」

 スウェンの問いに対し、ホテルマンは、胡散臭い顔でニッコリと笑った。

 エルが木の中に閉じ込められていた間、外に残されたメンバーは、相当な体力を消耗されたようだった。衣服の一部は擦り切れ、ホテルマンの整えられた髪もやや乱れていた。ホテルマンはもっぱら、シャツに皺が入ってしまった事を残念がっており、疲弊はしていないようだが……

 騒動の最中、ホテルマンはクロエを腕に抱えて逃げ回っていたらしい。彼は、エルにそう語った。

 しかし、スウェン達の沈黙と疲弊振りを見る限り、この男はログが言っていたように、特に役に立たなかっただろう事が見て取れた。エルが真相を求めても、スウェンは溜息をこぼすばかりで、しばらくの間はホテルマンに目も向けなかった。セイジも珍しく黙りこみ、疲労の浮かぶ顔で遠くを見つめていた。

 スウェンは騒動の際に、携帯していた探査機や地図を失ってしまっていた。一同が腰を休めている間、彼は足元に横たわる木々の根の間を覗きこみ、辺りを見渡し、大きく肩を落とした。

「まぁいいか。『夢人』とかいうの少年ほど使えないにしても、ホテルの彼が、道案内代わりにはなるだろうからね……」

 スウェンの言葉を、ホテルマンは否定しなかった。ホテルマンは、何となく気が抜けたような、作り物の顔で面倒そうに「そうですねぇ、まぁ、確かに分かりますけれど、はい」とぼやいた。