「ああ、そう言えば説明不足だったね。夢では意識下で話すから、どんな国の人間とも意思の疎通が出来るらしいよ? 英語だとか日本語だとか、意識して使う事は出来ないと思う」
「ふうん、そうなんだ」

 その時、スウェンが「そう言えば」と相槌を打った。

「ちゃんとした自己紹介がまだだったね。僕はさっき手短に述べたけど、スウェンだよ。で、こっちの東洋風がセイジ。彼は母親が日本人なんだ。愛想がない方は、皆からログって呼ばれているよ。名前が長いから君も『ログ』と呼ぶといい」

 フルネームや、本名である必要もないらしい。

 そう考えて、エルは一つ肯いてこう答えた。

「――俺はエル、こっちはクロエ」
「へぇ、『エル君』か。呼びやすい名前だね」

 スウェンは笑顔を浮かべたが、途端に目尻を下げた。

「分かるとは思うけど、今回の件は軍の機密事項で――」
「大丈夫だよ。俺とクロエは、一人と一匹で自由気ままな旅をしているだけだし、この辺には知人も友人もいないから」

 エルは、意図的にスウェンの話の続きを遮った。

「一人なのか?」

 その時、ログが初めて問い掛けて来た。エルは彼のブラウンの瞳を見つめ、それから視線をクロエへと流すと、彼女の頭を撫でて時間稼ぎをしながら的確な返答を考えた。